今回は、普通に運用されているバイクに起こりうるキャブレターのトラブルについて説明します。 キャブレターの中のフロート室はガソリンで満たされています。そのガソリンはタンクから来ています。キャブレター内部に物理的な汚れが直接浸入することはなく、汚れは全てタンクから来るのです。タンクの中のガソリンが汚れるのは、タンク内のサビ、洗車や雨、結露による水分の浸入などが主な原因です。エアプレーンタイプのキャップでしたら、給油口のまわりの水抜き穴が詰まっていると、洗車のあとに給油しようとキャップを開けたとたん、たまった水が盛大にタンク内に流れ込みます。
タンク内に水が混入すれば、アルミや樹脂タンクでない限りは、さびが進行していきます。タンク内面のサビが進むと、サビが剥がれ落ち、タンクストレーナーで止められない微細なさびはキャブレターに入ってしまいます。水はストレーナーで止まることが多いですが、大量に入っていれば、キャブにも浸入します。 キャブレターに浸入したさびや水はそのままでは抜けることはありません。フロートチャンバーの底に順調に堆積していきます。それがわずかな量なら、走行に差し支えることはないのですが、メインジェットの頭に届く程に溜まってしまうと問題が発生します。エンジンはかかるが、スロットルを開けるとストールしてしまう場合、水やさびの浸入が原因でしょう。 こうなってしまった場合、タンクとキャブレターの両方のメンテナンスが必要になります。
以前、お客様より、「走っていればキャブレター内に残った水は少しずつ燃焼するんですよね?」と聞かれたことがあります。残念ながら、それはありません。水の表面張力はガソリンより高いので、ガソリンは通れるジェットの穴でも、水は通ることができないのです。可能性があるとすれば、水抜き剤の使用です。水抜き材はほとんどが水和製の高いアルコールですので、少しづつではありますが、水と混ざり、ジェットの穴を通り燃焼室に入ってくれます。しかしながら、アルコールが水と混ざる量はわずかなものですので、入れただけでタンク内の水がなくなるというものではありません。
せっかくですので、水が混入して、内部が錆びてしまったタンクの簡易的な洗浄法について、書いてみたいと思います。
★あくまで、我々プロが設備の整った環境にて作業する方法ですので、一般の方は決して自分では行わないでください!★
タンクは、車体から取り外し、ポンプなどでガソリンを抜きます。この段階で、ポンプのホース内に水が上がってくるのが見えるようですと、重傷です。きれいなバットを用意し、燃料コックを取り外し、中のガソリンを全て抜きます。水やサビが大量に出てくるようでしたら、コックを再び取り付け、抜いたガソリンの上澄みだけをタンクに戻し、よく振ってまた抜きます。この作業を、水とサビが出てこなくなるまで続けます。これはかなり根気の要る作業で、作業時間は数時間に及ぶこともあります。ガソリンのベーパーもかなり出ますので、休憩しながら作業します。
この作業で改善されるのは、タンク内に貯まった水とサビを除去するのみで、タンク内壁のサビを落とすことはできません。それでも、作業後にタンク内に水分が入らないようにして、常に満タン状態で保管するようにすれば、それ以上のサビの進行はかなり抑えられるはずです。今は市販のサビ取りコーティング剤などもいろいろ出ていますので、試してみるのも良いでしょう。ただし、進行してしまったサビを落とすときには、最悪タンクに穴が開いてしまうこともあるのです。