最近のバイクにはほとんど使われていませんが、キャブレターは長い間、バイクのエンジンに混合気を送る機構として活躍してきました。我々、旧世代のバイク屋の修行時代の大半はキャブレターのオーバーホールで占められていたといっても過言ではありません。緑色に腐ったガソリンの強烈なにおいは、我々の「臭いの記憶」として、生涯消えることはないでしょう。
我々がキャブレターの話を始めたら、尽きることがないのですが、まずは、キャブレターの整備について書いてみようと思います。
キャブレターの整備で、最もよく聞くのはOH(オーバーホール)でしょう。OHは始動性などに問題がなく、普通に走行できるのであれば特に必要は在りません。バイク乗りの皆さんの中には、キャブに関して、信仰にも似た思い込みを持っている方がいまして、「~万キロごとにOHしなければだめだ!」とか、「ただ乗っているだけでもキャブレターの中は汚れていくものだ!」などと、どこで聞いたのか、おっしゃる方がいます。まあ、その全てを否定はしませんが、その作業をプロに依頼するのでなければ、あまり意味がないと言えるでしょう。キャブレターの整備は、エンジン整備と同じくらいのスキルを必要とする仕事だからです。
では、OHが必要な場合とは? まずは、長期間乗らずに放置してしまい、セルをいくら回してもエンジンがかからない場合。これは、キャブレター内部に残ったガソリンがバクテリア分解され、ワニス状になって経路をふさいでしまうことが原因です。この場合は、完全な分解清掃と部品交換が必要です。それ以外ですと、フロートチャンバーガスケットの劣化や、チェックバルブの劣化によるガソリン漏れや、シリンダー内へのオーバーフローを起している場合です。前者ほどではないですが、時間のかかる作業です。
キャブレターの中には多くの消耗部品が使われています。その主なものは、Oリングやチェックバルブなどのゴム部品ですが、メインジェットやスロージェット、ニードルなども、長く使用すれば正常に機能しなくなります。それらを定期的にすべて交換するのは理想ですが、残念ながら、そういった依頼はほとんど受けたことがありません。
写真はキャブレターの内部ですが、写真で見える範囲でも、大まかなガソリン経路が5つあります。その全ての経路がどこにつながり、何の役割をし、経路が詰まるとどんな症状が出るのか?その全てを理解していなければ、OHする意味がありません。実際の作業は、ジェットやバルブは全て外して作業するのですが、特殊な構造を持つキャブや古いバイクから外したキャブには、やってはならないタブーも存在します。そんなタブーなどサービスマニュアルには書いてありませんが…ね。