さて、簡単にはいかなかった時計修理の話も大詰め。まずは、このピンボケの写真を見てもらいたい。このスプリングは、手巻き機構のラチェット部を動作させるスプリングだ。前回転がり落ちてきたギヤが収まるポケットまで分解していくと、出てくる部品。取り出すときも、慎重にやらないと、はじけ飛んでしまうほど小さく軽い。もちろん落ちても音などしない。
件のギヤは巻き芯で支持していないと、落ちてしまうので、巻き芯を軽く差し込んだ状態で組んでいく。オシドリのピンにスプリング状のプレートをかぶせて固定、ラチェットのレバーを取り付け、スプリングを入れて…
「うわっ! ど、どこ行った?」
「ふうっ、やっと見つかった」
この繰り返しが10回くらい。完全にロストしてしまったら、アウトである。かなりの集中力を要するので、帰宅して入浴してからの数時間しか作業できない。結局、このスプリングを組むまでに2日かかった。(ほとんどは、飛んだスプリングを探してる時間)
何とか、ギヤを収める部分を組み終わり、時刻合わせ、手動巻き上げができるかチェックする。ふむふむ、どちらもOKだ。それでは、と、文字盤を取り付け、針を付ける。もう一回チェック。OK、どちらも動く。慎重に巻き芯を抜き、そっとケースを上からかぶせる。ケースにムーヴメントを入れると、また、ギヤが落ちてくるため、このようなやり方をしなければならない。隙間に樹脂のカラーを入れて、その体制を維持しつつ、そっと巻き芯を入れていく。
最後に、裏蓋を締める前に、もう一回チェック。おやっ?巻き上げが動かない。しょうがない、もう一回やり直し。すると、ケースから出していると普通に動く。ケースに組むと動かない。ということは、微妙にはまっているだけの、ケースとムーヴメントのガタが原因ではないか?樹脂のカラーを入れることによって、何とか収まることは収まるのだが、0.5ミリほどのガタがある。竜頭を入れようとすると、ムーヴメントを押してしまい、巻き芯の先端が奥まで入らないようだ。
しょうがないので、プラスチック製の薬の台紙を小さく切り、樹脂カラーとケースの隙間に押し込む。こうすると、ムーヴメントとケースのガタがなくなり、巻き芯の先端が奥まで噛み合う。ようやく、裏蓋を閉めても、竜頭の機能がすべて使えるようになった。動くようになった時計を1日ほど、放置し、止まらないのも確認できた。
ふうっ、ようやくできた。お客さんに連絡すると、喜んで取りに来てくれた。どうも、直らないと思っていたようだ。私も途中であきらめかけたが、何とか形にすることができた。それにしても、この細かい機械の修理は、思いのほか楽しかった!
キカイとごはんと猫が好き。