秋の上高地へ…(後編)

タクシーの運ちゃんの一言、「秋の上高地~」に向けて計画を練る。できれば、乗鞍のいつもの民宿に1泊を絡めたぜいたくプラン…が理想だが、最近の多忙さからすると、どこかでワンチャンの日帰りを狙うしかない。

仕事を圧縮して何とかひねり出した休みが、10月の20日(火)。おそらく紅葉は終盤だろう。それでもせっかく調整したのだからいかねばなるまい。疲労具合と相談して家を出たのが4時。乗り換え駐車場には7時台には到着したが、その時間のバスは出た後。しかし、そこは紅葉の時期だけに、臨時バスが出るという。20分ほど待つと、そのバスが来た。5~6名乗車の快適なバスに乗り、いざ上高地へ!

バスから降りると、バスターミナル周辺はかなり冷え込んでいる。河童橋は今日も平和にたたずんでいる。例年の、連日お荷物満載状態からすれば、今年は「橋」としても楽だろう。

日は登り切ってはいるが、山間の上高地の入り口は薄暗く感じる。しかしそこから見上げるまわりの山々には、朝日が当たり輝いている。気温はまだ0度を下回っているようだが、歩けばちょうどよい予定の装備で来ているので、問題はないだろう。

小梨平のキャンプ場を抜け、上高地の山々への玄関口である徳沢を目指す。キャンプ場から先の、梓川左岸コースは、鬱蒼とした森の中を抜ける林道である。路面はよく整備されていて、明神まではほぼフラットで歩きやすい。落ち葉を踏みしめながら、薄暗い森の中を進んでいく。

途中視界が開けることもなく、ただただ林道を歩く。気温は上がらず、相変わらず0度以下。歩いていても寒く感じる。予想より気温が低く、ちょっと想定外。ひたすら歩き明神に到着。ここには山荘があり、軽食などもいただけるようだ。しかし、私は手弁当のおにぎりがあるので、ベンチに座り補給する。味気ないおにぎりだが、出かけるときには、できるだけ手弁当を持っていきたいという変なこだわりが私にはある。まあ、これと言って理由はないが、ただの貧乏性なのだろう。

明神を過ぎると、やや視界が開けてくる。まだらに白い衣をまとった山々が、川の向こうに立ち並んでいる。ずっと薄暗い林道を歩いてきたので、この景色はありがたい。休みをひねり出した甲斐があるというものだ。それでも工程の半分は相変わらずの森の中。時々のぞく山々に、わずかに癒されながら歩いていく。

明神からさらに40分ほど歩くと、少し開けた場所に出る。徳沢に着いたようだ。右に行くと徳沢ロッジ、左に行くとキャンプ場を備えた徳沢園だ。キャンプ場には数張りのテントが設営されていた。週末を家族で楽しむファミリーテントではないので、これから山を目指す人のベースなのだろうか?それにしても、夜は相当寒そうだ。

この段階で、時間は9時半。そろそろ歩くのも飽きてきた。景色もたいして良くないし、退屈なのだ。もう少し行くと、梓川の対岸に渡る吊り橋があるらしいので、そこまでは行こうと決意する。15分ほど歩いて、吊り橋に到着。橋の名前は失念してしまったが、踏板の隙間から下の川が見えるし、結構揺れる吊り橋だ。対岸に渡ると、「屏風のコル」などへの登山道につながる林道に出る。

さて、再び吊り橋を左岸へと戻り、またひたすら歩いて帰るとしよう。帰りは、明神から右岸へと渡り、観光散策ルートを歩いたのだが、これは大失敗だった。河原の木道と、林道を行ったり来たりしながら進むのだが、何しろアップダウンが多い。しかも帰り道の途中から、左膝靱帯と右くるぶしあたりに違和感を感じていて、この細かいアップダウンがジャブのように私の足を痛めつける。時間も12時に近づいていたので、前から観光客がわんさと歩いてくる。何やら修学旅行らしき学生たちも多くみられたが、外国人は少なかった。何とか河童橋まで戻った時には、かなりの疲労感。ソフトクリームなんぞ食べて、バスターミナルへ。この時間になると、さすがにかなりの人出で、臨時バスもどんどん出ている。さほど待たずにバスに乗ることができた。乗り換え駐車場に着くと、どっと疲れが押し寄せてきた。駐車場の売店で、売れ残りのローストビーフサンドとコーヒーを買い、店員さんとちょっと話した。やはり、今年の人出は異常に少なく、売店内にある河童橋のライブカメラには、人が1人も写っていないこともあるそうだ。

車に戻り、少し休んで帰路に就く。走りだすと、駐車場のまわりの紅葉が今日一番の鮮やかさであることに気が付く。

こうして、今年一番の個人イベントとなった、「秋の上高地散策」は終了した。ひたすら歩き、ぼちぼちの景色を堪能したと言うことができる。しかしまあ正直な感想を言うと、上高地はどこまで歩いても、所詮まわりの山への玄関口でしかないということである。山に登りたいと思っている人間にとっては、目の前に人参をぶら下げられて、ひたすら河原を歩かされる馬車馬のごとき心情しか味わえない。「人の少ない秋の上高地を散策する」という目的は達成されたが、その先の山々への憧れをさらに募らせる結果となってしまった。さてさて、この先私はどうすればいいのだろうか?悩ましいなぁ…